大判例

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東京高等裁判所 昭和42年(ネ)94号 判決

そこで、右認定事実によつて考えると、理由のいかんにかかわらず長期間にわたつて賃料を延滞していた控訴人の非は否みえないものである。しかしながら、本件賃貸借契約解除は右賃料債務の履行遅滞を理由とするものであるが、右解除の意思表示がされたのは、右延滞賃料請求訴訟が調停に付され、その期日がただ賃料の支払方法に関する合意に到達するために繰り返されており、しかも、その合意は両当事者の態度からみて遠からず成立することが予想されていた時であつたといえる。そして、調停が成立した場合には、賃料債務の履行遅滞の状態は消滅するのであり、被控訴人らが調停の成立を図る態度をとりつづけていた以上遅滞の状態の消滅を予想していたものといわなければならないし、控訴人が未払賃料の履行は成立すべき調停条項にしたがえば足りると考え、ただちに全額を支払おうとしなかつたことも無理からぬところということができる。したがつて、被控訴人らとしては、これとは裏腹に右賃料支払訴訟提起を賃料支払の催告とし、これに対する賃料不払を理由に突如として本件解除の挙に出ることは当然差し控えるべきことであつたというべきである。しかも、その後未払賃料を全額一時に支払う旨の調停が成立したのであるが控訴人としてはこれを支払えば解除による土地明渡は許してもらえると考え、無理算段の挙句、短日時内の一時払を承諾したのであり、調停委員会の説得の要点もここにあつたことを右調停期日に出頭していた被控訴人ら代理人である前記棚村弁護士としては知つていただろうし、少くとも知ることができたはずであるといえるから、右解除による本件訴訟係属の事実、その結果をどのようにつけるか等を調停委員会に具申すべきであつたのにこれをせず、控訴人が右のような動機から一時払を承諾したことを知りながら、少くとも知ることができたはずであるのに、その調停だけは成立させ、その債務名義を取得しておいて、他方で、これと本件解除とは関係がなく、その効果には消長をきたさないとして土地明渡を求めることは、まことに異例の措置といわなければならない。すなわち、かかる事情の下において、被控訴人らが右賃料支払の遅滞を理由に突如として本件賃貸措解除の挙に出たのは、当時当事者間に期待された相互の信頼関係を破ること甚しいものであつて、右解除の意思表示は信義誠実の原則に照して到底許されないというべきである。

(小川 松永 川口)

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